Darkside(リンクエラー修正しました)

2019年3月6日(水) 21:40

限界突破

 磁束飽和により、吸引力に上限ができてしまう。

 そう結論付けてしまったが、バッチ処理の実現により鉄球位置を変化させたグラフが作れるようになると、即断できないことに気付いた。
 すなわち、磁束が強くなるとコイルから離れた位置でも充分な吸引力を発生可能になる。磁束が相対的に弱い離れた位置の方が、磁束飽和が遅れる結果として、吸引力のピークが砲尾側にズレて行く。
 鉄球が半分だけコイルに入った位置に固定して計算していたのでは、傾向を誤る可能性がある。もっと探るべきだ。

 そう考えて、1000A通電でのシミュレーションを、鉄球位置を変化させつつ実行してみた。すると、なかなか凄いグラフができた。
 いずれも、鉄球が半分だけコイルに入った位置は吸引力のピークから程遠い。コイル長5ミリでは、それより更に2.5ミリ砲尾側に引っ張り出した位置が最強だ。10ミリコイルでは3ミリ、15ミリコイルでは3.5ミリ、そして20ミリコイルになると4ミリも引き出さねばならない。
 磁束飽和するということは鉄心の意味が小さくなるということであり、余りに磁場が強くなって鉄芯の無い空間の磁束密度が上がるようになると、相対的に鉄心の存在が小さくなるのだろう。1000Aでの吸引力は、空芯コイルの吸引力を鉄心無視でビオ=サバールの公式から計算したものに近い。

 しかし、コイルが長くなると、ビオ=サバールの公式とは異質の現象が発生する。鉄球がコイル中心から少しズレると、逆方向に吸引力が働くのだ。

 また、磁束飽和しない場合だと、長いコイルほどピーク時の吸引力は大きくなる。しかし1000Aでは、長さ10ミリのコイルが最もピーク吸引力が大きい。鉄球サイズが関係していそうだ。
 更に吸引力20キロ以上のエリアは、コイル長10〜20ミリまで変化しても区間幅約6ミリと変わらない。そうなると、短いコイルの方が効率が良いのは明らか。このあたりの異様な大電流になると、完全にコイル長10ミリが優位に立つ。ただし、スイッチング素子等の負担が大き過ぎて、ほぼ実用不可能な実装である。理論的興味だけであって、現物の設計には役立たない。

 逆方向に吸引力が働くのは、シミュレーションの限界かもしれない。何であろうと理屈には適用可能範囲がある。目安1000Aなんて現実離れした電磁石では、シミュレーターが正常に計算できていないのかもしれない。
 そこで、ParaView を使用。コイル長20ミリで位置5.5ミリという、もっとも吸引力のマイナスが大きな状態を可視化してみた。 位置5.5ミリとは、コイル中心と鉄球前端が一致する座標。

 鉄球の前方にプラスの吸引力、後方にマイナスの吸引力が働く。これは、常識的な電流の場合と同じ。しかし、吸引力の絶対値とその範囲が異なる。磁束飽和により吸引力の絶対値も飽和してしまうため、鉄球の前後で吸引力の絶対値の差が小さくなる。
 そして、マイナスの範囲が鉄球の半ばよりも少し前方まで回り込んでいるこれにより、マイナスの方が大きくなったわけだ。

 作用反作用の法則により、コイルが鉄球を吸引すると、コイルは鉄球と逆側に引っ張られる。だから、鉄球が赤いとコイルは青く、鉄球が青ければコイルは赤くなる。鉄球の半ばより前方寄りの青は、コイル砲尾寄りの赤に対応している。
 分かり易いようにグラフのスケールを狭め、プラスとマイナスが分かり易いようにしてみた。

 これは、300Aと1000Aを交互表示させて違いが比較できるようにしたGIF画像。

 300Aでは鉄球が主導的な役割を果たし、鉄球の前後でコイルの青と赤が切り替わっている。
 それに対し1000Aになると、コイルが主導的な役割を果たし、コイルの中心付近を境にしてコイルの青と赤が切り替わっている。

 そしてコイルの赤に引きずられるように、鉄球の青が前方に進出している。だから、鉄球トータルの吸引力がマイナスになっている。

 鉄球は、磁束を強める。しかし、磁束飽和が発生する。
 それに対しコイル巻き線内部は、磁束が強められない。その代わり、磁束飽和しない。
 結果として、電流が非常に大きくなるとコイル巻き線内部の磁束が鉄球を上回る。磁束飽和した鉄球を逆転してしまう。

 そして、主役が交代する。

 以前はB-H 曲線設定ファイルの範囲外だと判断してしまった(特定位置だけ計算させたせいで判断ミス)が、10000Aも計算させたみた。凄まじいグラフが出現した。猛烈なマイナスの吸引力が発生している。しかも、プラスの吸引力のときみたいに飽和していない。

 1000A同様に、最もマイナスが大きな20ミリコイルの位置8.5ミリを確認してみる。

 これもグラフのスケールを狭めて、プラスとマイナスが赤青に分かれるようにしたものだ。

 傾向は1000Aと似たようなものだが、コイルが余りに主導的になり過ぎて、鉄球を完全に圧倒してしまっている。
 鉄球の磁束が2.5テスラあたりで飽和してしまうのに対し、鉄球がない部分の磁束は飽和せず、10000Aでは最大79テスラに達する。

 吸引力がマイナスというのは、砲尾側に飛び出すということ。前後入れ替えれば、凄まじい推力で加速される。
 この図から分かるのは、磁束飽和を無視して強引に力ずくでプロジェクタイルを加速するコイルガンの姿だ。

 ほんと、計算は広範囲に行わねばならない。特定位置でだけ計算させたのでは、目を閉じて象をなでるようなものだ。
 コイルガンは、電流を増やせば増やすほど、威力がガンガン上がる。磁束飽和などブチ破って力ずくで強引に。

 長さ20ミリしかない単弾式コイルガンでも、10000A流せば秒速300メートルぐらい出そうだ。

 ただしそれは、理論上の話に過ぎない。現実には、超伝導コイルでも20テスラぐらいしか出せない。常伝導コイルで79テスラを出せる訳が無い。実行すれば、一瞬でコイルが蒸発してしまうだろう。ジュール熱もそうだが、電磁力に耐えられず弾け飛んでしまう。
 火薬銃は、強靭な鋼鉄で銃身を製作できる。だが、コイルガンは銅というヤワい素材だ。火薬銃なみの性能は、素材的に不可能。
 20ミリの単弾式コイルガンで秒速300メートル出そうとすれば、超伝導ダイヤモンドでコイルを作るしかあるまい。加えて巨大な冷却装置と、磁場圧縮の実験装置なみのコンデンサーバンク。

 思考実験は楽しいが、ADVENTURE は誘導電流をシミュレートできない。10000Aも流して鉄球に生じる誘導電流が、どんな影響を与えるのか?それは分からない。

written by higashino [コイルガン設計] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(0)] [TB(0)]

この記事へのトラックバックPingURL

Comments

TrackBacks

Darkside(リンクエラー修正しました)

Generated by MySketch GE 1.4.1

Remodelling origin is MySketch 2.7.4