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2019年2月12日(火) 21:49

超巨大勘違い

 都心でも雪が降ると大騒ぎしていたが、結局ロクに積もらずバトルタンク出撃の密かな野望は実現しなかった。それはともかく、大変な勘違いをしていた。愕然とした。

 話は、コイルガンのシミュレーターを作ろうという再度の野望から始まる。
 コイルガンに関しては現在、ストームタイガーのレストアが主戦場である。その基礎実験を一部兼用してのガスガン電磁バルブがあるものの、そっちはコイルガンが主役ではない。
 ストームタイガーの場合、ほぼスケールモデルであり主砲コイルの物理的サイズが決まっている。更に、コンデンサーや放電回路等に使用可能な空間も限定されている。よって、威力にしろ命中精度にしろ追求しようとすれば、念入りな設計が必要だ。勘に頼って設計すべきではない。

 勘ではなく証拠に基づいた設計を行おうとすれば、精度の高いシミュレーターが大きな武器になる。順送り回生型コイルガンは、適切な通電タイミングを決定するのが非常に難しい。更に、適切なコイル仕様を決定するのは遥かに難しい。それこそ、勘に頼って設計してしまったのが元祖ストームタイガーだ。
 若干の簡易シミュレーションだけで、元祖の主砲コイルが最適ではないことが明白になってしまった。

 ストームタイガーの主砲を最適化すれば、どれぐらいの威力を出せるのか?
 コイルガンS計画のようにもっと大掛かりなコイルガンを作る場合、最適な設計とはどのようなものか?
 それを、勘と試行錯誤で追及するのは現実的ではない。ある程度の精度を持ったシミュレーターの開発に全力を注ぎ、それを活用して追及すべきだ。

 コイルガンS計画は頓挫したが、しなかったとしても最適化は絶望的だった。仮にIGBTが破損しなくても、思ったほど威力出ないね?と失望するだけの結論だったかもしれない。
 コイルガンに関しては分からないことが多過ぎる。何しろ実用性がない装置なので、大学や企業の研究所はロクに扱っていない。ほとんどすべてがアマチュアが趣味で行う電子工作であり、経験則しか出回っていない。そして順送り回生型に至っては、製造が難し過ぎるため実例もない。

 ここは自分でやるしかあるまい。すなわち、順送り回生型専用のコイルガン・シミュレーターを作る。
 結果として超多段式コイルガンがペイしないと判明するかもしれないが、実際に作るまでも無く有望ではないと判明するのであれば、それはそれで意味がある。逆に性能が出せそうだと判明すれば、高コストも容認できる。

 シミュレーターの基本方針は単純だ。純粋に計算のみでコイルガンのシミュレーションを行うのは至難だが、だったら実測値を使えば良い。
 現物のコイルを製作し、パチンコ玉の位置を変えつつコイルのインダクタンスと吸引力を測定する。それを使って、数値積分するのだ。これで明らかに、シミュレーションに必要な情報は足りている。

 だが、1つだけ落とし穴が残っていた。
 それは、インダクタンスは容易に実測できるが、吸引力の実測は難しいということ。コイルガンにおいては数百アンペア流れるが、吸引力を測定できるほどの時間そんな電流を持続させるのは無理だ。電源も無いし、コイルが燃えてしまう。となると、1Aなど小さい定電流を流し、測定するしかない。そして、大電流時の吸引力は、そこから計算する。

 では、100A流れた場合の吸引力は、1A流れた場合の何倍だろうか?
 これで、1行目に戻る。

 コイルが発生させる磁場の強さは、電流に比例する。それは、いい。
 自分が致命的に勘違いしていたのは、プロジェクタイルに働く吸引力は磁場の強さに比例すると思い込んでいた点だった。正しくは、磁場の強さの2乗に比例するのだった。結果として、プロジェクタイルに働く吸引力は電流の2乗に比例して大きくなる(磁束飽和しない場合)。
 100A流れた場合の吸引力は、1A流れた場合の100倍ではなく1万倍なのだ。

 コイルガンS計画が失敗した後、製作物も廃棄してしまった。しかし、コイル製造時に不出来として弾かれたコイル1段分が、なぜか発見された。行方不明だったおかげで、逆に廃棄を免れた皮肉。それはともかく、せっかくなのでそのコイルを使い、インダクタンスを実測してみた。吸引力は正確な測定を行うには準備が大変なので、とりあえず1A流してパチンコ玉に働く力を指先で感じようとした。

 元祖ストームタイガーの場合、主砲内におけるパチンコ玉の加速は平均1000Gていどである。コイルガン内において加速効率は大きく変動し、実際に加速に寄与するコイル長は半分以下。つまり、順調に加速するタイミングでは2000Gぐらいになっているはずだ。パチンコ玉は5.5グラムなので、吸引力に直すと10キログラムのオーダーになる。
 これに対しコイル電流は、順調加速時で200Aていどと想定される。つまり、吸引力が電流に比例しているのであれば、1A通電で50グラムぐらいの吸引力が働くはずである。少なくとも、自重より遥かに大きな吸引力が働いてしかるべきだ。

 ところが、実際にコイルに1A通電しても、パチンコ玉の自重さえ支えられない。容易にこぼれ落ちてしまう。いや、1Aを2Aに増やしても、ほとんど指先には力が感じられない。僅かに違和感がある程度で、予備知識がなければパチンコ玉には何の力も働いていないと思ってしまいかねない。これは、明らかにおかしい。
 実は十数年前、初めてコイルガンを製作するときにも類似の実験をしたことがある。適当に巻いた手巻きコイルに弱い電流を流したが、やはり極めて小さな力しか働かなかった。これではマトモな威力のコイルガンなど実現できないと思いつつコンデンサーからパルス大電流を与えたら、それなりの勢いで射出されたので驚いた。

 当時は深く追求しなかったが、吸引力が電流の1乗ではなく2乗に比例していると考えれば辻褄が合う。2Aでは200Aの1万分の1しか吸引力が発生せず、10キログラムの100分の1である100グラムではなく、たった1グラムの吸引力。これは、現実に合致している。
 しかし、吸引力が1グラムのオーダーだとすれば、それを正確に実測するのは困難である。電流を増やせば吸引力も2乗で増えて、まさに加速度的に測定し易くなる。だが、コイルの発熱も加速度的に増えてヤバい。
 更に、磁束飽和をどう扱うかの問題もある。

written by higashino [コイルガン戦車 1/24] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(0)] [TB(0)]

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