2014年11月21日(金) 21:27
突然だが、銃の発射原理をご存知だろうっか?
そんなもの分かり切っているだろ、火薬を爆発させて発生した高圧ガスで弾丸を加速・・・というのが一般人の認識だろう。しかし実際にそれをやると、銃が壊れて射手が負傷する。
このあたりの事情は、ガンマニアであれば理解している。
火薬の爆発は、専門用語で「爆轟」と称する。誘爆速度は秒速7〜8キロもあるため、数センチの火薬であれば10万分の1秒以下で全体が爆発し、高圧ガスとなる。
ところが銃の場合、弾丸が銃身を進んで銃口から飛び出すまでに1万分の1秒ぐらいを要する。10万分の1秒では、初期位置からほとんど動いていない。そのため、高圧ガスが高圧になり過ぎて銃が破壊されてしまう。もちろん思い切り頑丈に作れば大丈夫だが、点火直後の一時的な超高圧にだけ耐えるために重量を増加させるのは割に合わない。
そのため、銃に使用されている火薬は、わざとゆっくり「燃焼」するように製造されている。
具体的には、火薬をある程度の大きさに固めてしまうのだ。
爆薬
火山灰のように非常に細かなパウダーで、爆轟により超高圧ガスを発生させる。
火薬
目視可能な大きさの固まり多数で、燃焼により高圧ガスを発生させる。
火薬と爆薬は化学成分は同一で、物理的形状が異なるだけである。
サイズや形状を変えて固めることで、燃焼速度を変化させられる。それによって、発生した高圧ガスが高圧になり過ぎることなく1万分の1秒を効率的に使用して弾丸を加速できるよう、火薬製造メーカーが知恵を絞っている。だから、拳銃用とライフル用では、火薬の見た目が異なる。
これで問題を起こしたのが旧日本軍で、大陸侵攻したところ銃の爆発が相次いで兵士が負傷した。原因は、想定外の低温。実包は、プライマーと呼ばれる少量の爆薬を尻に取り付けてある。トリガーを引くと激針がプライマーを叩き、爆轟させる。すると、本体の火薬に誘爆して弾丸が発射される。ところが低温になると、大抵の物質は脆くなる。
低温で脆くなった火薬が、激針の衝撃で粉末状になってしまい、燃焼ではなく爆轟して銃を破壊したのだ。
さて、なぜこんな話題を出したかと言うと、大規模なエアバッグのリコールがニュースになっていたからである。
欠陥エアバッグを製造してしまったメーカーが、原因を説明している報道を聞いた。エアバッグを膨張させるガスを発生させる化学物質を製造する際に、固化圧力が不足していた、湿度の管理も甘かった・・・と。その瞬間に、旧日本軍のミスを思い出したのである。そして、以下は自分が考えたこと。
まるで、火薬製造の不具合だよな。しかし、まさか火薬使ってるわけないし、何らかの別の物質だろう。それにしても、固化圧力が不足したぐらいでアウトなんて危険過ぎるだろ。命を委ねるエアバッグというシステムを、そんなアナログな原理で動かすなどあり得ない。結果を制御できないじゃないか。発生圧力をデジタル的に明確に予測可能な原理を使用して膨張させ、確信を持って安全係数を保証できるように設計するはずだ。クルマというバイタルな製品パーツを作るのに、アナログに頼ったおっかない設計はできない。道理が通らない。一体何が起きていたのだろう。
そこで、エアバッグについてググってみた。驚いたことに、エアバッグを膨張させるのにマジで火薬が使われていたのである!
何と、タカタが窮地に陥っている理由は、旧日本軍と同じだったのである。火薬が使用される理由は、高圧ガスなど別の手段ではエアバッグを膨張させるのが時間的に間に合わないということらしい。要するに、対案がないから仕方なく火薬を燃焼させている。今回は、その火薬が固化不良で爆轟してしまい、手りゅう弾状態に。
銃器と実包の製造に長けた欧米のメーカーならまだしも、巨大でもない日本の企業が火薬を独自製造はマズかった。仮に自分が同じ立場に置かれたら、エアバッグ用火薬の製造は、火薬の製造慣れしているメーカーに外注する。コストその他をうんぬんする以前に、リスク管理として自社製造はあり得ない。
written by higashino [科学コラム] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(0)] [TB(0)]
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