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2006年9月24日(日) 17:38
多段式コイルガンで問題になるのはスイッチング素子だ。単段であれば最悪ギャップスイッチでもいいが、多段式ではあり得ない。となると、スイッチング素子まずありきで仕様が制約を受ける。
更に、携帯銃となれば例によって重量制限がある。据え置き砲なら重くてでかいが高性能の素子を並べて使うことも可能だが、携帯したいなら非常にシビア。
いつもながら機能・性能と重量をバランスさせての設計だ。
サイリスタには小型の220パッケージ、中型のネジ型、大型のディスク型と分けられる。大雑把に言って、常時通電容量25Aまでが220パッケージ、50Aは境界で100A以上がネジ型となる感じ。ディスク型は携帯銃に使うのは重量的に論外なので無視する。
スイッチング素子にはいろいろ種類があるが、概して機能が豊富なものほど容量は犠牲になる。流しっ放しにしか出来ないサイリスタが最も大きな電流に耐えられ、OFF機能がある素子は少し劣り、スイッチングが高速ってオマケまで付くパワーMOSFETが最も電流を流せない。
限られた重量で性能を追求すると、まずはサイリスタを検討することになる。
写真はネジ型サイリスタCR400EL−8。左上にちょこんと1個載ってるのが220パッケージな小型サイリスタSF25GZ51である。これほど大きさが違うのだ。果たしてサイズ差と容量差だけの意味があるのか検討してみよう。
これとは別に東芝が特定用途サイリスタを出している。そのものズバリ「コンデンサー放電スイッチ専用」として開発されたS6992だ。大きさはSF25GZ51より小さい。
それぞれのスペックのうち、重要なものをデータシートから抜き出してみる。
電流二乗時間積は、ON抵抗を掛けると発生ジュール数となる。熱容量が同じでもON抵抗が小さければ大きな値が可能だ。巨大なネジ型は小型サイリスタに比べて電流で約20倍、容量は400倍程度だろう。相手が電解コンデンサーである限り、どんな巨大なバンクでもスイッチング出来そうだ。しかしいかんせん重い。ネジ先を切り取ったり尻尾の配線を切っても、300グラムはあるだろう。多段式には使い難い。
ただし、ここぞという大電流を扱いたい場合に1個2個使う状況はあり得る。
盲点が di/dt である。サイリスタ破壊原因のかなりを占めるらしい。サイリスタは耐電流があるのは当たり前として、電流が余りに急上昇すると破壊されてしまうのだ。コンデンサーの放電では一瞬の間に電流が急上昇する。これによって耐電流以内でも破壊されることがある。専用サイリスタS6992はここに特徴がある。巨大なネジ型よりも更に急上昇に耐えられるようになっている。
S6992のデータシートにピーク電流と di/dt しか記載がないのを見れば、コンデンサーの放電において考慮すべき重大パラメータが何であるか分かる。
型番 | SF25GZ51 | S6992 | CR400EL-8 |
耐圧 | 400 V | 800 V | 400 V |
耐電流平均 | 25 A | 不明 | 400 A |
耐電流1/50s | 350 A | 不明 | 7300 A |
耐電流1/60s | 385 A | 不明 | 8000 A |
耐電流最大 | 不明 | 500 A | 不明 |
I2t (電流二乗時間積) | 612 A2sec | 不明 | 270000 A2sec |
di/dt (臨界ON電流上昇率) | 100 A/μs | 750 A/μs | 500 A/μs |
重量 | 5.9 グラム | 1.5 グラム | 500 グラム |
備考 | 入手容易 | 入手難 | 重い |
コンデンサー放電時間は大抵の場合60分の1秒よりかなり短い。実際の最大耐電流はどの程度だろうか?ネジ型はともかく、SFではどうか?
S6992と同じ500Aと仮定してみる。この場合、I2tが612なので通電時間は2.4ミリ秒ほどだ。この値を覚えておこう。
今度は実装を考える。コイルにコンデンサーを接続して放電するのは、まさにLC共振器そのもの。最初はコンデンサーに蓄えられたエネルギーがコイルに移行し、またコンデンサーに戻って来る。これで共振の1周期。コイルを流れる最大電流はどの程度になるだろうか?
エネルギー保存則より、(コンデンサーに蓄えたジュール数)=(最大電流時にコイルに蓄積されるジュール数)となる。放電が完了しコンデンサーが空になった瞬間、コイル電流が最大(コイル蓄積エネルギーが最大)となる。両者の合計が等しいからだ。
コイルに貯まるエネルギーは(電流)の2乗×コイルのインダクタンス÷2である。
ここから、電流を500A以下にするためには、コイルのインダクタンスが8μH・ジュール以上あれば良いことが分かる。例のフラッシュ電解11ジュールを例に取れば、88μH以上のインダクタンスがあれば良い。1000Aまで許せば22μH以上で良い。
共振時間は2π√(LC)ってことで、フラッシュ電解200μFのコイル88μHだと0.83ミリ秒。先の2.4ミリ秒より充分に短い。
また、88μHのコイルに88μVを加えると、1秒で1Aまで電流が増大する。88Vなら1μ秒で1Aだ。330Vを加えてもせいせい4Aまでしか上昇しない。100Aに比べて余りに小さく、こっちも余裕ありまくり。di/dt
で壊れることもないだろう。
以上の検討から、電流制限500Aで設計すれば、数グラムの小型サイリスタが使えそうだ。問題は、LC共振が何周期もダラダラ続いたら破壊されるのではないか?という部分。これに関しては、実際に試して信頼性に疑問があればS6992調達に走るってことで。もう一度S6992のスペックを眺めてみよう。ピーク500Aと di/dt しか記載が無い。LC共振がダラダラ続いてもピーク500A平気だよそれが専用品たる所以だよ、と言ってるかのようだ。
LC共振
ここに設計上の重大問題が潜んでいる。
コンデンサーとコイルを接続して放電させると、エネルギーは両者を行ったり来たりする。直流抵抗成分によるロスやプロジェクタイルの加速に消費されたエネルギーが減少し、いずれ発振は止まる。でも、「いずれ」っていつだ?
重量制限のある携帯銃では、通電を止めるタイミングをコンデンサー任せにするのが楽である。つまり、空になったら止まるってことで、コンデンサー容量で放電時間を調整する。しかしそれでは、放電が長くなり過ぎる可能性もある。多段式それも多数連ねたいなら、放電が長いのは困る。11ジュールより小さなコンデンサーを単位にするのは煩雑に過ぎるし、コイルのインダクタンスは電流制限の観点から減らせない。つまり、共振時間は短く出来ない。
2個直列にすればCが半分になるが、ジュールが2倍になるためインダクタンスの方が2倍必要。共振時間は変わらない。
プロジェクタイルに渡るエネルギーは頑張っても1割以下っぽいし、放電を早期に止めるべく直流抵抗を大きくするのでは本末転倒の香りが漂う。
やっぱり、サイリスタではなく電流を能動的にOFFに出来る素子を使わないとうまく行かないか?
だが、それによってスイッチングシステムが重くなればこれまた多数連ねるのに支障が出る。携帯を考えたとたん、設計は急に大変になる。
LC共振の1周期でOFFに出来れば非常に好都合なんだよな。
プロジェクタイルの加速や抵抗ロスに使われなかったエネルギーはコンデンサーに戻って来るので、それだけで非常な効率アップである。例えば1000ジュールのコンデンサーバンクで、初弾は1000ジュールを充電せねばならないがその後は200ジュール補うだけでガンガン撃てる・・・なんてことが可能かもしれない。
written by higashino [コイルガン] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(0)] [TB(0)]
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