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2006年10月13日(金) 18:53

信頼性

 原理は極端に単純なのに、コイルガンはマジメに考えれば考えるほど厄介だ。数発撃ってメンテすれば良い実験室レベルならそれほどでもないが、実用を考えると問題だらけ。実用と言っても、エアガンの代わりに空き缶撃ったりして遊ぶ程度だが、数百発撃てばどこか壊れるのでは実用にならない。エアガンなら1万発はメンテナンスフリーで撃てるものだ。
 正直、無事に1万発撃てるコイルガンは現在ほとんど皆無ではなかろうか?

 電解コンデンサーが逆電圧で破壊されたり劣化する。ちゃんと設計されていても、急速放電に耐えられるストロボ用を使っていないなら、普通に使っていても遙かに早く寿命だろう。
 サージ保護のバリスターは劣化してショートする。果たしてスイッチング素子は1万回の発射に耐えられるほどしっかりと保護されているか?

(回路1)

 自分はついバリスターをサイリスター的にイメージしてしまって失敗するのだが、バリスターは通電しても電圧が下がればOFFになる。だから、コイルと並列に入れたバリスターが通電しても、フライホイールダイオードみたいにはならない。電圧が下がればOFFになる。

 それはともかく、これはブレーキング抵抗というかバリスターバンクを複数ユニットで共有可能な回路である。バリスターと直列に入れた抵抗はそれ自体がブレーキとして働くよりも、複数バリスターの負荷を平均化するのが目的である。
 バリスターに加わる電圧と、抵抗両端の電位差を合計したものは一定である。特定のバリスターが通電し電流が流れると、この抵抗に電位差が生じる。通電していないバリスターの抵抗には電位差が生じない。結果として、バリスターに加わる電圧は通電中のものの方が小さくなり、通電していないものも通電する。また、電流が多く流れるバリスターほど加わる電圧が減少する。
 かくして、バリスターバンクのバリスターは負荷が分散され、耐久性が大幅に向上するはずだ。

 もちろん、共有バリスターバンクは40連のユニットすべてのサージを受け持つことになるため、バリスター1つあたりの負荷ジュールは大して変わらない。だが、「ピーク負荷」は大幅に減少する。また、バリスターバンクが1セットで済むため、もっと高性能だが数百グラムもあるような市販のアレスター等を使用することも出来る。40連のコイル個別に実装する場合は無理だ。

 360V制限でブレーキが掛かった場合のコイル電流をシミュレートしてみた。あくまで1つのモデルに基づいたもので現実とは違うが、目安にはなる。単純な固定抵抗値をブレーキに使う場合、電流が減少するとブレーキの効きが悪化する。しかし、サージ電圧一定制御であれば、一定の傾きで電流が減少する。初期の減少率は小さいがゼロになるまでの時間は短い。
 ところが、モデル上なら可能だがこれを現実の素子で実現するのは難しいのだ。

 市販アレスター等は内部で一部にバリスターを使っていることが多い。バリスターは反応速度が速いので便利なのだろう。ところが、現実のバリスターは単純な電圧スイッチング素子ではない。電圧によって抵抗値が大きく変わる素子である。あくまで「大きく変わる」だけでありデジタル的にONとOFFに切り替わるのではない。
 バリスターに1ミリアンペアが流れる電圧を「開始電圧」と呼び、無限の電流が流れる=バリスター両端にそれ以上の電位差は発生しないという電圧を「制限電圧」と呼ぶ。開始電圧と制限電圧が近ければデジタル的に扱える。ところが、現実のバリスターでは2倍ほどの差があるのだ。
 更に、1ミリアンペアも流れたのではたまったものではない。バリスターバンクを50連にすれば50ミリアンペア。330Vのコンデンサーから・・・だからバリスターが通電して欲しくないなら開始電圧よりかなり低い電圧しか加えられず、その場合は制限電圧との差がもっと広がる。

 スイッチング素子の耐圧>バリスターの制限電圧でなければならない。バリスターの開始電圧>メインコンデンサーの電圧でなければならない。

 ところが、バリスターの制限電圧は開始電圧の2倍以上であるから、スイッチング素子の耐圧がメインコンデンサーの電圧の最低でも2倍以上実際は3倍は必要となってしまう。フラッシュ電解に330V一杯まで溜めるのであれば、耐圧1000V程度のスイッチング素子を使わねばならない。
 一般論としては、GTOサイリスターやIGBTで耐圧1000Vは特に厳しい要求ではない。幾らでも転がっている。だが、ストロボ専用のスイッチング素子は耐圧400V程度の品しかない。

 ストロボ専用の素子はコンデンサーのパルス放電に特化しているため、小型軽量安価のくせに耐電流が大きい。入手できれば極めてコイルガンに適している。ところが、専用品であるが故にスペックに余裕は無い。ストロボ用コンデンサーは300〜360Vが殆どであるため、専用素子も耐圧400Vしかないのだ。そしてその分の性能を耐電流その他に配分している。
 耐圧1000Vの品など、間違っても存在しない。もし存在しても入手出来る訳がない・・・

 実用性とか現実とか言い始めると、いろいろな問題が複雑に絡むのだ。
 「研究室レベルでは完成しているが、実用化までにはいろいろな問題を解決せねばならない。」良く聞くセリフである。以上はその具体例のささやかな1つである。
 自分はこの「実用化」に最大の興味を持っている。実用化に伴う諸問題を解決する挑戦に最大の興味を持っている。なぜなら、レーザーや磁気投射装置は研究室レベルでは凄まじいものがとっくにあちこちで実現している。プロの前にアマは出る幕が無い。しかし実用化となれば別だ。アマの独壇場である。プロは「ワット級グリーンレーザーを持ち運ぼう」とか「携帯コイルガンで空き缶撃って遊ぼう」などと絶対に考えないからだ。プロが絶対参加しない世界なのである。

(回路2)

 実用上は、先週考えたシンプルなこっちの回路がむしろ適していそうである。

 ブレーキングバリスターにメインコンデンサーの電圧が加わらないため、バリスターの開始電圧>メインコンデンサーの電圧という制約が消える。制限電圧が400V以下という条件だけでバリスターを探すことが可能だ。
 しかしバリスターの負担が大きく、故障チェックは40連ユニット個別に行わねばならない。大型のアレスター等を使うことも出来ない。バリスターが短絡してもブレーキが壊れるだけで致命傷ではないが。

 バリスターを1Ω程度の抵抗に置換すると、ブレーキの効きは甘いがまず故障しない信頼性の高い回路となる。
 まずは、(回路2)でバリスターの寿命がどの程度になるか、試してみるのが先決っぽい。バリスターが耐えてくれるのであれば、ほぼシミュレーション通りの高性能ブレーキとなるはずである。
 最後に、(回路1)と(回路2)の問題点をまとめてみよう。

(回路1)
 ・メインコンデンサーの電圧が加わるため、バリスターの開始電圧が高くなければならない。高耐圧のスイッチング素子が必要。

(回路2)
 ・バリスターの負担が大きい。壊れてるかどうかのチェックも個別に行わねばならず煩雑。
 ・大型高性能のサージ対策装置を使えない。

written by higashino [コイルガン] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(2)] [TB(0)]

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Comments

『サイリスター』

ディスクサイリスタを使ってみてはどうでしょうか?
扱える電力はネジ端子とは比較にならないほど大きく、強力なサージにも耐えられます。
それにネジ端子の物よりも軽くて小型です。ネジタイプは金属の塊ですが、ディスクタイプはセラミックの塊です。重量は半分程度で済みます。

written by あ

『IGBT』

 情報ありがとうございます。
 しかし注意深い設計をすると思い切り軽量化出来そうな「ストロボ専用」IGBTが入手出来そうです。4パラで使うと1ミリ秒の耐電流600A、重量は4つで数グラムです。
 サージ600Aに耐えられるディスク型の重量が10グラムとかなら良いのですが・・・もちろんスイッチングOFF機能付きで。

written by IDK

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