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2006年10月17日(火) 17:18

コイルの設計

 コイルガンの設計はレーザーに比べると比較にならないほど面白い。レーザーなど設計段階では余り面白くないのだが、コイルガンは何も作らなくてもたっぷり楽しめる。その理由は恐らく、素材がシンプルで入手し易く自由度が高いからだろう。レーザーは専用のパーツが多く、与えられたものを組み合わせることしか出来ない。
 ただし、設計を楽しめるのも実際に製作する気があればこそ。作らないつもりであれば設計に本気で臨む気分にもなれないだろう。
 今回は、使用コイルのスペックを煮詰めたい。

 コイルのピーク電流が小さければ、吸引力も小さくなる。しかし一方で、電流を大きくすれば抵抗ロスが増大するだけではない。定抵抗値によるブレーキ方式では、ブレーキング時間が延びる。ピーク電流が大きいと同一サージ電圧に抑えるには小さな抵抗値でブレーキを掛けるハメになるからだ。
 現在調達に目処が付いている具体的パーツはIGBTの耐電流が150A×4で、ダイオードは80A×8の予定である。ところが両者とも耐電圧は400Vしかないため、サージをそれ以下にせねばならない。電流を500A強まで欲張ればブレーキング抵抗値が小さくなる。小インダクタンス大電流で磁気の立ち上がりが鋭くなる一方で消磁がトロくなるのでは、おいしくない。

 細いエナメル線を使用すればコイルが軽量になる一方で直流抵抗が増大する。太いコイルは抵抗ロスが減るがコイルが重くなる。
 117μHの試算では、コイルガンの常識では細い1.2ミリのエナメル線を使用しても重量が50グラムにもなった。超多段コイルガンの場合、更に太いコイルの使用は重量的に容認出来そうにない。そこで、太さ1.2ミリおよびそれ以下で各種属性を試算してみよう。以前と異なり回路の基本方針が固まったので、より深い検討が出来る。

 いつも書いてるように、携帯機器はバランスである。すべてを満足させようと欲張れば間違いなく重量に満足出来なくなる。この回路は特にブレーキング性能においてベストとは言い難い。特に、余ったエネルギーを回生せず全部捨ててしまう難点がある。だが、容認可能ではあるし、性能と重量と信頼性と作り易さをバランス良く実現していると思う。

 多層コイルのインダクタンスは結局のところ実際に製作して測定せねば確定しない。特にコイルガンの場合、インダクタンスの絶対値が極めて重要なので、それなりにマトモな測定器で確認しつつ最終仕様を決定する必要がある。だが、概算で当たりを付けておかねば作業が大変になる。

 以下は試算だが、注意点としてコイルはらせん状に巻くため、例えば9回巻くには9.5巻分の幅が無いとキツい。また、製作の面倒さから半巻ずらしは行わず、5層巻けば厚みは単純に直径5つ分になるものとする。更に、絶縁被覆の厚みも無視出来ない。内径は13ミリ固定。パラメータを変えつつ、まずはインダクタンスが60〜120μHあたりになる組み合わせを選び出した。また、コイルの総重量は約2キロまでとし、それを大きく越える物は不可とした。

 新顔のパラメータが表の右に並んでいる。いずれもシミュレーションによる計算結果である。コンデンサーのESRを20ミリΩ、IGBTのスイッチング抵抗を10ミリΩと仮定してある。
 330V200μF、蓄積10.89ジュールのコンデンサーを放電してコイルをチャージした時に、コイルの電流がピークに達するまでの時間をマイクロ秒単位で示したのがμsの欄である。Aはその時のコイルのピーク電流アンペア。Jはその時コイルに蓄積されたエネルギーをジュールで。Gはピーク電流と巻数の積であり、発生磁力の大きさの目安(相対値)である。

エナメル線1.2ミリ

 外径1.304mm、16.36mΩ/m(20度)、10.1g/m

コイル長12.4mm (9巻/層) 40連使用を想定 
巻数 外径mm μH 全mm 重さg μs A J G
8層72 33.864 122.2 5300 86.7 53.5 257 373 8.52 26884
7層63 31.256 85.6 4380 71.7 44.2 216 444 8.43 27958
6層54 28.648 57.2 3533 57.8 35.7 177 539 8.30 29098
コイル長9.8mm (7巻/層) 50連使用を想定)
巻数 外径mm μH 全mm 重さg μs A J G
8層56 33.864 83.7 4122 67.4 41.6 213 451 8.50 25240
7層49 31.256 58.8 3406 55.7 34.4 179 534 8.39 26181

 明日以降に線径1.1ミリ以下を試算してみるが、その前に表の解釈方法を。
 ピーク電流Aは定格に直結するので重要。プロジェクタイルがコイルに接近するとインダクタンスは増大しピーク電流は落ちる。だから、空芯状態で500Aを少し位オーバーしても問題はない。むしろ好ましいとも言える。しかし、空撃ちしたら壊れました!では困るので定格は守らねばならない。

 蓄積エネルギーJからは、直流抵抗によるロスが分かる。最初コンデンサーに10.89J溜まっていたものが、コイルその他の直流抵抗で失われる。コイルに移ったJが大きいほど、ロスが少ないことを示す。エナメル線が短いと直流抵抗は減るが、電流が増大することは不利に働く。両者が打ち消して、効率面では大きな差が出ていないのが分かる。
 また、エネルギーは4分の3以上がコイルに移行しており、直流ロスは大きいものの恐怖すべきほどではないことも分かる。プロジェクタイルのオコボレは充分残っているだろう。

 ピークまでの所用時間は余り意味がない。プロジェクタイルが通過する前はある程度長時間磁力を保持出来れば有利だが、ピークを過ぎてもブレーキを遅らせることで磁力が発生する時間はある程度調整が出来る。
 ピーク電流が大きいとブレーキが鈍くなることと、磁気を発生し続けた場合の持続力を暗示するJを見ながら考えることになる。大差無いなら軽い方が魅力的だ。

 最後に、コイルガンが要するに電磁石であることを思い出そう。強力な磁力を発生させねば意味が無い。磁力は電流に比例し、大雑把には巻数にも比例する。両者の積は磁力の強さの相対的な目安となる。他の特性がすぐれていても、この値が明らかに劣るようでは採用し辛い。

 プロジェクタイル低速時は長時間通電に有利な小電流仕様、高速になる銃口付近に立ち上がりの速い大電流仕様とコイルを使い分けることはすぐ思い付く。ところがむしろ、高速時は磁気を高速に消せる方が有利であり小電流仕様が望ましいとも言える。最適設計は頭痛の種だ。悩まず全部同一仕様のコイル並べるのが案外ベストかもしれない。

 ちょっと面白い試算を1つ。
 エナメル線2ミリはコイルガンで良く使われるが、これで単段コイルガンをシミュレーション。

エナメル線2.0ミリ

 外径2.118mm、5.713mΩ/m(20度)
 コイル内径13mm インダクタンス 619μH ・ エナメル線全長37m強 ・ 直流抵抗 211.7mΩ

コイル長211.8mm (100巻/層) 5層500巻 
400V・μF Cジュール μs A J G
200 16 578 203 12.77 101565
2000 160 2039 483 72.17 241445
10000 800 5913 507 79.51 253429

 メインコンデンサーは400Vにしたが、160ジュールから800ジュールに伸びたことで立ち上がり時間は3倍に延びたものの蓄積ジュールはほぼ変化無し。恐ろしいことに、800ジュール注入では磁力が最大に達する頃にはエネルギーの9割以上が既に直流抵抗で失われている!
 このコイルガンの「効率」は推して知るべし (^_^;)
 ただし、磁力を抜くのは楽だ。何しろ電流ピーク時にはもうエネルギーが枯渇し掛かっているのだから(大汗)

 また、ピーク電流は500A近辺で頭打ちである。今回計画している超多段コイルガンは、電流面でも単段式に比べて特に小さくはないのである。

written by higashino [コイルガン] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(1)] [TB(0)]

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Comments

『大失敗』

 この項目でかいミスを発見してしまい、修正調査中です。
 2ミリのエナメル線で500Aそこそこなんてことはありません。900A近く行くはずです。

written by IDK

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