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2006年10月18日(水) 17:23

机上の限界

 近い将来、多段式コイルガンの複雑なシミュレーションを計画しているが、普通の回路シミュレーターでは実行出来そうにない。
 要するに、多段コイルそれぞれの最適点火タイミングをパソコンに計算させようって狙いだ。意図する計算を実現するにはプログラム内に専用の制御をあれこれ組み入れねばならない。コイルガン専用のプログラムを作らねば無理だ。
 そのための第一歩として、今回はピーク時間到達や蓄積エネルギーをシミュレートするために自前のプログラムを使用した。しかし、どうも SwitchedCAD の描くグラフと明白なズレが発生している。特に、エナメル線が細くなると差が大きい。

 球体に働く磁力は容易に計算出来ない。実際のコイルを試作して定電流を流し、実際のパチンコ玉に働く力を計測。同時に、パチンコ玉とコイルの位置関係を変えながらコイルのインダクタンスを実測する。
 こうして集めた現実のデータを使って、多段式コイルガンそのものをシミュレーションしてしまうのである。さもないと40段なんてコイルガンの点火タイミングは決定不能だ。何しろ点火だけでなく消磁タイミングも決める必要がある。

 エナメル線の太さを最終的にどうするのがベストか?場所によって太さを変えるのが良いのかそうではないのか?
 このあたりは実測に基づくモデルを作って計算せねば結論が出せそうにない。

 この計画のためには、自前のプログラムが正確に動いてくれないと困る。一体何がズレの原因なのか?
 実は昨日、表に示したピーク到達時間は、メインコンデンサーの電荷がゼロになるまでの時間なのである。自分はうっかりして、コイル電流が最大となるのはコンデンサーが空になった瞬間だと思い込んでいた。ところが、そうではなかったのである。
 なぜなら、(系の全エネルギー)=(コイルに蓄積されたエネルギー)+(コンデンサー残存エネルギー)なのは間違いではないが、系の全エネルギーは一定ではない!

 ごめんなさいうっかりしてました。
 各種直流抵抗によって熱と消えて行き、系の全エネルギーはどんどん減少していました。だから、コンデンサーが空になるより少し前にコイル電流は最大となっていたのである。
 エナメル線が細いほど熱と消えるエネルギーが多いため、ズレが増えていた。また、昨日の800ジュール(上のグラフ)みたいにロスが増える場合もズレまくり。
 作者は勘違いしていたのに作ったプログラムは正しく動いていたのが面白い。途中経過を調べると、ちゃんと大電流が計算されていた。

 それでは改めて、Aはコイル電流のピーク(メインコンデンサーが空になる瞬間ではない)。
 J1はその時のコイルエネルギー。J2はその瞬間のコンデンサー残存エネルギーを加算したもの。μsはコイル電流ピークまでの時間。エナメル線1.2〜0.8ミリまで調べてみた。

 

エナメル線1.2ミリ

 外径1.304mm、16.36mΩ/m(20度)、10.1g/m

コイル長12.4mm (9巻/層) 40連使用を想定 
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層7233.864122.2530086.753.52353778.708.8927176
7層6331.25685.6438071.744.21964498.628.8428286
6層5428.64857.2353357.835.71605468.528.7529476
コイル長9.8mm (7巻/層) 50連使用を想定)
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層5633.86483.7412267.441.61944568.698.8925517
7層4931.25658.8340655.734.41625418.608.8126496

 

エナメル線1.1ミリ

 外径1.204mm、19.57mΩ/m(20度)、8.47g/m

コイル長12.6mm (10巻/層) 40連使用を想定 
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層8032.264141.65688111.348.22513468.488.7227681
7層7029.85699.5471292.239.92104118.418.6728785
6層6027.44866.8381274.632.31724998.328.5929949
コイル長10.2mm (8巻/層) 50連使用を想定)
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層6432.264101.6455089.138.52124098.498.7226158
7層5629.85671.6377073.831.91784858.418.6627142

 

エナメル線1.0ミリ

 外径1.102mm、22.95mΩ/m(20度)、7.01g/m

コイル長12.7mm (11巻/層) 40連使用を想定 
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層8830.632161.16031138.442.32663208.248.5328153
7層7728.428113.75011115.035.12233798.198.4929227
6層6626.22476.6406693.328.51834608.118.4330373
コイル長10.5mm (9巻/層) 50連使用を想定)
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層7230.632119.74935113.334.62303728.278.5626767
7層6328.42884.7410094.128.71934408.218.5127736
6層5426.22457.1332776.423.31585338.118.4328785

 

エナメル線0.9ミリ

 外径0.986mm、28.28mΩ/m(20度)、5.67g/m

コイル長12.3mm (12巻/層) 40連使用を想定 
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
7層8426.804129.45252148.529.82363487.868.2429280
6層7224.83287.74279121.024.31944217.808.2030358
5層6022.8655.9338095.619.21555257.698.1331481
コイル長10.3mm (10巻/層) 50連使用を想定)
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層8028.776139.75250148.529.82463377.958.3126992
7層7026.80499.34377123.824.82073997.908.2827923
6層6024.83267.43566100.820.21704827.828.2228911

 

エナメル線0.8ミリ

 外径0.882mm、35.89mΩ/m(20度)、4.45g/m

コイル長11.9mm (13巻/層) 40連使用を想定 
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
7層9125.348145.95482196.724.42483197.417.9329003
6層7823.58499.54482160.919.92043857.367.9029998
5層6521.8263.83555127.615.81634787.287.8431044
コイル長10.1mm (11巻/層) 50連使用を想定)
巻数外径mmμH全mm重さgμsAJ1J2G
8層8827.112160.55545199.024.72613067.508.0026917
7層7725.348114.64638166.520.62203617.477.9727798
6層6623.58478.3.3793136.116.91824357.417.9328713
5層5521.8250.33008108.013.41455397.317.8729660

 

 エナメル線の太さが同じ場合、層数(巻数)が変化しても効率は殆ど変わらない。直流抵抗の増大と電流の低下がほぼ相殺している。そうなると、層数少な目の方が大きく軽量化される分、有利である。
 電流が増えるためブレーキの効きが悪化しそうだが実は殆ど変わらない。同じコイルであればピーク電流が増えるほどブレーキを効かせられなくなるが、コイルが違う。ピーク電流の大きなコイルはインダクタンスが小さい。つまり、電流にブレーキを掛け易いのである。このため、表にはないが小さなブレーキング抵抗値しか使えなくてもブレーキタイムのハンデは殆ど無いと判明。
 結論として、ピーク500Aの仕様に収まる範囲で、層数の少ないコイルを採用するのが良いと思われる。

 では、エナメル線の太さが変わった場合はどう考えれば良いだろうか?
 細くなるにつれて電流ピークは早くなり効率は低下しピーク磁力は大きくなる傾向にある。つまり、プロジェクタイルをギリギリまで接近させて一気に大磁力を与えるのに向く。一方で、比較的長時間の磁力を働かせたい場合は向かない。今回、余ったエネルギーを回生せず全部捨てるため、効率はそれほど重要ではない。細いコイルが非効率と言っても絶対値としてはそれほどまで酷くはない。
 空撃ちではない場合などどうなるか?このシミュレーションからでは判断し切れない。実測データを集め、もっと現実的なシミュレーションを行う必要があるのだ。

 1つ言えるのは、コイルユニット1単位に使用するコンデンサーが200μFで11ジュールしかない小型のものである。このため、通常のコイルガンの常識より遙かに細いエナメル線が最適な雰囲気がある。

written by higashino [コイルガン] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(0)] [TB(0)]

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