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2006年8月28日(月) 17:32
何度も書いてるように高電圧を作るコンバーターにチョッパー型は不適切である。ニキシ管を光らせるような小電力ならそれほど問題ではないが、大電力では無駄が多過ぎる。無駄の原因はスイッチング素子に高電圧が掛かること。だから、電圧の低い降圧型のPCマザーボード用としてなら常用されている。
しかし構造が単純で自作し易いため、完全自作の一号機としては向いている。性能の低さを認識した上で、スペックを欲張らなければ十分モノになろう。以前設計した↓の定数を少し修正すればOK。
スイッチングFET
スイッチングはゲート容量が小さいほど高速に行うことが出来てロスを減らせる。ところが、FETのゲート容量は一般に耐圧が高いほど大きく、電流を多く流せるほど大きく、更に厄介なことにON抵抗が小さいほど大きい。
ON抵抗が小さいとON時のロスが減るが、そういうFETはスイッチング時のロスが増えるのだ。
FETは便利で高性能だがゲート容量が最悪の性質を持っている。耐圧が高くても大電流流せてもON抵抗が低くてもゲート容量の増えないFETを発明すれば、青色発光ダイオードに匹敵する革命が起きるかもしれない。もちろん特許料もガッポリと。
プロの方頑張って下さい★
残念ながら現状は理想のFETが無いため、スペックを吟味して無理無駄のない選定するのが性能を出す上で重要となる。
まず絶対なのは耐圧。330V出力だから最低でも400Vは必要だ・・・となる時点でチョッパー型は決定的に不利という次第。
FETを直列するのは精密な制御を要し、構造がシンプルというチョッパー型唯一の利点を無意味にする。もちろん、複数のFETを使えばトータルのゲート容量も増える。
続いてON抵抗。これはバッテリーからコイルをチャージする時のロスに直結する。出力に比べて大電流となる入力で効いて来る。
1Ωもあったら5A流れただけで25ワットの発熱。効率は話にならない。ところが、耐圧400V以上のFETではちっとも珍しくない。
この時点で選択の余地がほぼ無くなる。秋葉原レベルで手に入るFETは、2SK3131か2SK3132しかない。それ以外は耐圧330Vに達しないかON抵抗が0.2Ω以上あるか、とにかく論外なのだ。
両者の違いだが、3131は内蔵ダイオードの逆回復時間が短いためモーターを駆動したりする場合にトラブルを起こし難い。3132はON抵抗が低い。3131が0.11Ωなのに対し0.07Ωである。
昇圧チョッパーではFETに逆電圧は加わらないため、2SK3132がベストとなる。前回書いたように、このFETだけで秋月インバーターが買える。
そんな出費をしなくては要求性能を出せないのがチョッパー型の悲しさである。ON時は330Vではなく12Vが加わるので、安定動作領域が0.1Aなんて馬鹿なことにはならない。それでもラジコンバッテリー2本直列で安心出来るのはせいぜい15A程度まで。一見思い切りオーバースペックな50Aという仕様だが、当然あってしかるべきマージンを考えると決して贅沢ではない。
ここまでやるなら秋月インバーターを買い占めて徹底的に改造試験を続ける手もある。秋月インバーターはFET1個の値段で買える上に通販やっていて誰でも簡単に入手出来る。その改造手法を確立すれば手軽な携帯高圧電源として多くのマニアの役に立つだろう。壊したとは言えかなりのところまで解明が進んでいる。入力電流制限さえ掛かれば有力な武器になる可能性が高い。
だが、市販インバーター改造が失敗続きで精神的に参っている。近い将来再開する可能性は高いものの、今は気分転換が必要だ。
チュークコイル
コイルはインバータートランスに比べると市販品が流通しているため選択の余地がある。しかし希望にピッタリ来る許容電流とインダクタンスの組み合わせはなかなかない。
コイルとコンデンサーは電流と電圧が逆になったようなもので、コンデンサーを思い浮かべると面白い。コイルの許容電流はコンデンサーでは耐電圧に相当する。つまり、許容電流の大きなコイルは貴重品であり、許容電流を大きくしようとすれば急激に図体がでかくなる。
大電流を扱えるチョッパー昇圧回路はでかいコイルを抱え込む羽目になる。逆に言えば電流で少し妥協すれば一気に楽になる。
この辺りを考えつつ、入手出来たコイルに合わせてインバーターの仕様の方を調整しようと決める。トランスほどではないにしろコイルも結構不自由なのだ。
結局15Aで300μHのコイルにした。重さが300グラムもある。システム重量4〜5キロを想定している中で0.3キロは決して軽くないものの、コイルの持つ重要性を考えるとまあ仕方ないかなと。本当なら15Aで75μHでいいからずっと小さいのが欲しかったが、そういう選択の余地がないのがコイルの不自由さってこと。
2SK3132は耐電圧耐電流ON抵抗すべて揃っているため、ゲート容量が実に11000pFもある。まさに桁違いだ。当然スイッチングロスが凄いことになるため、可能な限りスイッチング周波数を低くしたい。そうなると300μHというインダクタンスは武器になる。数KHzまで落とせる。
また、コンデンサー充電とは極めて特異な分野である。出力が短絡した場合、普通の電源装置は回路を守るだけで良い。火災を起こしたり壊れたりしなければ良いのだ。これに対しコンデンサー充電器は、出力が短絡した状態で普通に定格出力を送り出すことを要求される。そしてその状態の方が正常ケースと来ている (^_^;)
壊れないだけでは役に立たない。
当然ながら過電流保護回路の持つ意味が通常の電源装置とは全く違う。それは常用される前提であり、十分な信頼性が必要である。ここで大きなインダクタンスが意味を持つ。静電容量の大きなコンデンサーが大きな電圧平滑力を持つのと同様、インダクタンスの大きなコイルは大きな電流平滑力を持つ。電流の変化がマイルドになれば相対的に電流検出機構の反応が速くなり、信頼性が高くなる。
標準設計マニュアルからすれば過剰なインダクタンスも、コンデンサー充電器では意味があると考えられる。
出力
FET、コイル共に15Aは行けるので、入力電流制限も15Aとすればかなりのワット数を出力出来そうに思える。しかし、15Aはピーク電流であり、常時15A流れるのではない。
FETがOFFになっている期間はコイルに蓄積したエネルギーを放出するだけであり、平均すれば15Aに達することはない。FETがONになっている期間も、コイルを流れる電流は最大15Aに向かって少しずつ大きくなる。例え出力が短絡されてもいきなり15A流れるのではない。コンデンサーを充電する場合に電圧が少しずつ大きくなって行くのと同様だ。だから、平均電流は更に小さくなる。
入力電流の平均が15Aよりかなり小さくなる以上、出力ワット数がバッテリー電圧×15Aまで出るなんてことも絶対に無い。
FETがONになっている割合が大きいほどワット数は増える。秋月インバーター同様にチョッパー回路も、出力電圧を高めで運用した方が出力が大きくなる。
入力側の平均消費電流は恐らく3〜5Aだろう。これはいずれ電流計でチェック出来る。50ワットとして、出力側30〜40ワット出ればかなりのものだろう。15秒で500ジュール程度になる。コンデンサーの電圧が上がり切る直前は消費電力が減るので、実際には500ジュールのバンクを15秒ではチャージ出来ないだろう。それでも、我慢出来そうな性能だろうとの目処は立つ。
車載インバーターにしろ電子レンジにしろ、家電製品にとってコンデンサーの充電は思い切り想定外のアプリだ。
流用した場合は、やはり常にオーバーロードで壊す危険に怯えることになろう。自作チョッパーはコストが高く性能も一流とは言い難い。だが、最初からコンデンサー充電を想定して設計する点で、使用上の安心感はある。
試しに544ジュール電解を充電したら、アッという間に壊れるかもしれないが(汗)
昇圧チョッパーにはもう1つ面白い性質がある。それはFETがOFFであってもバッテリーと出力が接続している点。コンデンサー電圧がゼロに近い初期充電時はバッテリー直結充電が最も効率的なので、この性質は有効に働く。出力ダイオードの容量に要注意。ただし2回目以降の発射では意味は無い。フラッシュランプの放電が終了してもコンデンサーには50〜70V残るものなので、バッテリー電圧より遙かに高い初期状態からチャージを開始することになる。
written by higashino [パルスレーザー] [この記事のURL] [コメントを書く] [コメント(7)] [TB(0)]
Generated by MySketch GE 1.4.1
Remodelling origin is MySketch 2.7.4
『余談ですが』
どっかの大学で材料の研究やっている者です。
MOSFETの耐圧とオン抵抗はもうシリコンという材料固有の限界からくるトレードオフを迎えていてこれ以上の高性能化はムリです。
なので今SiCやGaNといったモノを使ってのパワーデバイスが研究されています。
written by mako shark
『期待してます』
MOSFETではない別の何かがMOSFETを上回る性能で登場してくれればOKなので期待してます。
MOSFETを使うのが目的ではなくスイッチングが目的なので、代替の強力パーツが登場すれば全く問題無しです!
written by IDK
『タイトルなし』
大電圧・大電流になるとIGBTのほうが有利ですね
ご指摘の通り,耐圧の大きいFETはON抵抗が大きい上,発熱はON抵抗×電流^2となりますが,
IGBTなら,飽和電圧×電流となりますので
written by 1MHz
『IGBTの問題は』
IGBTは電流が小さい状態でも飽和電圧が税金として取られるので効率が落ちるのが欠点ですね。
しかし何よりも大きな欠点は、入手し難さでしょう。
MOSFETはかなりの機種が個人ユーザーでも簡単に買えますが、IGBTはアマチュアが容易に買える機種が極端に少ない。
データシートが手に入るIGBTの大半が秋葉原の店頭に出回る状況になれば、みんなもっと使うと思います。
written by IDK
『タイトルなし』
初めまして
この昇圧チョッパをPSpiceでシミュレーションしてみましたが、出力が約10V程度にしかなりませんでした;;
素子も同じなのに何ででしょうか・・・
困ってます><
written by 学生
『正直良く覚えてないというか』
これ6年も前の記事なので、たぶんその後改良されまくってます。
このあたりがブログの弱点で、歴史の保存には向いてるものの最新の情報をメンテするのには向いていません。
最新情報だけを公開し続けるには普通のホームページが一番なのですが、それこそメンテの手間が掛かりまくるのでこれまた少し古い情報が鎮座していたりします。
written by IDK
『出力ダイオード』
あと、出力部に400Vと記入してあるダイオードが極めて重要で、決定的に性能を左右します。
ここには、逆回復時間の短いダイオードを使わねばなりません。さもないとせっかくチャージした電荷がコンデンサーから逆流し、ちっとも充電できません。
安いからと1N4007など使うのは論外。最高の高速ダイオードを1本奢りましょう。
written by IDK